浦和地方裁判所 平成5年(ワ)35号 判決 1996年3月08日
原告
坂本謙一
同
石塚重吉
同
古内博
同
武田清
同
亀田清広
同
清水晏夫
同
内田好男
同
村田道夫
同
木暮隆治
同
長沼和夫
同
渋沢孝夫
右一一名訴訟代理人弁護士
山本政道
同
池本誠司
同
石川博康
同
荒木直人
被告
宏和商会こと
小池宏一
右訴訟代理人弁護士
神山祐輔
被告
新和商会こと
藤川光章
右訴訟代理人弁護士
赤尾時子
主文
一 被告らは、原告坂本謙一に対し各自九三六万七四六九円、原告石塚重吉に対し各自四〇一万五〇八三円、原告古内博に対し各自四四六万七七七五円、原告武田清に対し各自五一九万三一四九円、原告亀田清広に対し各自五二二万九四六六円、原告清水晏夫に対し各自四五五万五九四七円、原告内田好男に対し各自五〇二万二〇三八円、原告村田道夫に対し各自五三七万五〇五八円、原告木暮隆治に対し各自五七一万三六四六円、原告長沼和夫に対し各自一二四五万七六三四円、原告渋沢孝夫に対し各自五〇九万三七〇五円及び右各金員に対する平成四年八月一日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告石塚重吉、同古内博、同武田清、同内田好男、同木暮隆治、同長沼和夫のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は、被告らの負担とする。
四 この判決の第一項は、仮に執行することができる。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告らは、原告らに対し、各自別紙二「請求債権額」欄記載の各金員及びこれらに対する平成四年八月一日から各支払済みまで年五分の割合による各金員を支払え。
2 主文第三項と同旨
3 仮執行の宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告らの請求を棄却する。
2 訴訟費用は、原告らの負担とする。
第二 当事者の主張
(請求原因)
一 当事者
1 被告新和商会こと藤川光章(以下「被告藤川」という。)は、ゴルフボール成型機、耳切研磨機、バレル研磨機(以下、右三種類の機械を併せて「ゴルフボール製作機一式」という。)の卸売業者であり、かつ、それによって製作されたゴルフボールを買い上げ、それを転売する業者である。
2 被告宏和商会こと小池宏一(以下「被告小池」という。)は、ゴルフボール製作の下請人を募集し下請契約を締結した上、被告藤川からゴルフボール製作機一式を買いそれを下請人に転売し、下請人にそれによってゴルフボールを製作させ、そのゴルフボールを買い上げ、それを被告藤川に転売する業者である。
二 被告藤川は、製作されたゴルフボールを買い取る約束の下、下請人にゴルフボール製作機一式を売ることを計画し、被告小池に対し、新聞の折込み広告を媒体としたゴルフボール製作の下請の募集方法、下請契約の勧誘方法、ゴルフボール製作の仕事の説明方法を教え、ゴルフボール製作の元請業者兼ゴルフボール製作機一式の仲介業者となることを勧誘したところ、同被告もこれを了承した。
三1 これを受けて、被告小池は、平成三年九月ころから平成四年三月ころまでの間に、埼玉県北部及びこれに隣接する地域の新聞折込みによる求人広告に、数回にわたり、「不朽のゴルフ人気」「スタッフ募集」「下請けさん同時募集」「練習用ゴルフボール製造」「専属契約・仕事年中有」等を内容とする広告を「宏和商会」名で掲載した。
2(一) 被告小池は、右広告を見て同人方を訪れた原告らに対し、被告藤川の指導どおり、成型・耳切り・バレル・塗装のゴルフボール製作の一連の工程のうち、耳切りまでの工程のみを機械の使用方法を説明しながら簡単に実演して見せた。
(二) そしてその際、被告小池は、原告らに対し、被告藤川から教えられたとおり、「簡単ですよ。」「経験のない女性が一人でもすぐできるようになりますよ。」「年をとってもできる。」と簡単な作業である旨説明し、また、「ゴルフブームなのでゴルフボールの供給が間に合わないほど売れている。仕事がなくなることはない。」と継続的に仕事が得られる旨説明し、さらに、「やればやるほど金になる。」「買入れが一個五四円(又は五六円)で、利益は一個あたり約二〇円で、月四、五〇万を稼ぐことができる。」と高収入が得られることを説明した。
3 しかし、その一方で、被告小池は、原告らに対し、塗装については「後で講習します。」と言っただけでその指導や実演をせず、また、製作したゴルフボールの検査基準及び検査方法については、「キズ、汚れに注意」と漠然とした説明はしたものの、練習用のゴルフボールだから多少の不具合は問題にならないと言い、その具体的説明をせず、さらに、ゴルフボールの買上基準については、「できたボールはすべて私の所で引き取ります。」と言って原則として全て被告小池が買い取るかのような説明をした。
4 また、被告小池は、下請となるためには、ゴルフボール製作機一式を購入することが必要であると説明した。
5 そのため、原告らは、右機械を購入して下請となりさえすれば、短期間の技術習得により、安定したかなりの高収入が継続的に得られ、機械購入等の出費も早期に回収して利益を挙げることができるものと誤信し、被告小池との間で、別紙一の契約日欄記載の各日に、ゴルフボール製作下請契約及びゴルフボール製作機一式の売買契約を締結した。
四 一方、被告藤川自身は、原告らに対し、被告小池と共にゴルフボール製作機一式の納入、設置、調整、使用方法の説明、作業指導をしたり、「不良品は出ない。製品は一〇〇パーセント購入する。」「女性でも誰でも、作業は簡単にできる。」と説明し、また原材料の購入先として自らを指定した。
五1 しかし、このゴルフボール成型機は、油圧により上下動する上金型と固定された下金型の各くぼみが正確に対応していない上、上下の金型を合わせる四本のガイドが精密でなく、かつ、原材料(円柱型の合成ゴム)を金型に垂直に立てることが困難であるため、歪んだ、ディンプルの完全についていないゴルフボールが多くでき、また、耳切研磨機は、調整装置が緩みやすいことから、削り具合を見ながら手作業で行わなければならないものであるため、しばしば削り過ぎを生じ、さらに、バレル研磨用に被告小池から提供された粗砂は、角がとがったものであるため、ゴルフボールに突き刺さりキズをつける、というそれぞれ欠陥を有していた。
2 また、被告小池は、バレル・塗装については、機械設置後一か月以上経過した後にようやく、技術的に極めて未熟な者によって簡単に実演指導をさせたにすぎず、特に、塗装前の洗浄及び塗装後の乾燥は、それが不十分な場合、そのゴルフボールの塗装がすぐに剥がれてしまうという重要な作業であるにもかかわらず、被告小池は、原告らに対し、洗浄及び塗装後の乾燥の方法・程度については、何ら具体的な指導をしなかった。このため、原告らは、塗装の剥がれやすいゴルフボールしか製作することができなかった。
3 しかるに、被告小池は、原告らに対し、前述のとおり、製作したゴルフボールの検査基準や検査方法、合格品の買上基準について具体的説明をせず、非常に簡単な作業であり、練習用のゴルフボールだから多少の不具合は問題にならないと説明していたにもかかわらず、実際の検査は、非常に厳格な方法や基準で実施し、その結果、被告らが提供したゴルフボール製作機一式や被告らが指導した製作方法では、その検査基準に適うゴルフボールを製作することは非常に困難であったことから、結局、原告らは、その製作した殆ど大部分のゴルフボールについて、被告らから契約どおりの価額で買い取ることを拒否された。すなわち、
(一) 被告小池は、原告らに対し、検査方法を具体的に説明していなかったにもかかわらず、実際は、納品したゴルフボールの一割程度を抜き取って、ゴルフボールの歪み、表面のキズ、塗装ムラを細かく調べ、そのうちのゴルフボール二個を強く擦り付けて、剥がれが生じないかどうか検査するという厳格かつ不合理な検査方法を実施した。
(二) そして、右のように納品したゴルフボールのうちの一部を検査しただけで、納品したゴルフボール全体を、歪みやキズ、塗装ムラ・剥がれの程度によって、不合格品、B級品、A級品の三段階に区別し、不合格品は買い取りを拒否し、B級品は契約した売買価額の半分以下(材料代以下)である二一円で買い取り、基準に合格したA級品のみを契約した価額である五四円又は五六円で買い取るという契約時には全く説明のなかった検査基準及び買上基準を実施した。
(三) 被告小池は、原告らに対し、契約時には練習用のゴルフボールだから多少の不具合は問題にならないと言っていたにもかかわらず、このような厳格な検査方法及び検査基準を適用したうえ、被告らの恣意的な判断により、ささいな歪み、キズ、塗装ムラ・剥がれを理由に、十分な説明もなく納入した大部分を不合格品またはB級品とし、契約どおりの価額で買い取ることは殆どなかった。
4 また、被告藤川は、原告らに対する説明どおりだとすると、被告小池を通して原告らから大量のゴルフボールを買い取るはずであったにもかかわらず、この大量のゴルフボールを継続的に転売できるような販路を有しておらず、被告小池から継続的にゴルフボールを買い取ることは不可能であった。
5 さらに、原告らの契約した買取価額(五四円又は五六円)を前提とすれば、被告藤川が被告小池をしてこれを買取って転売することは、ゴルフ練習場への一般的納入価額からみて、到底採算がとれるものではなく、営業として継続不可能であった。
六 以上の事情によれば、被告らは、原告らが、被告らが指導する所定の製作工程に従ってゴルフボールを製作し納入しようとしても、大多数を不合格品またはB級品とされてしまい、営業的に採算が取れる仕事として継続することが不可能か著しく困難であることを知り、又は容易に知りえたにもかかわらず、共同して、原告らに対し、あたかも誰でも簡単に商品価値のあるゴルフボールを製作することができ、被告小池を通じて確実にこれを買い上げてもらえることにより安定的継続的に高収入を得られるかのように説明をしてそのような収入により高額な設備投資をしてもそれを容易に回収して利益を挙げることができるものと誤信させ、原告らに高額の設備投資をさせたものである。
七 損害
原告らは、被告らの右共同不法行為により、ゴルフボール製作機一式及び剥離剤等のゴルフボール製作上必要な物品を被告小池から買受けるために、別紙二「機械等代金請求額」欄記載の金額を、また、被告小池の斡旋のもと、塗装機械及び原材料を購入するために、同「塗装設備費請求額」及び「材料購入費請求額」欄記載の金額を、さらに、被告小池の指導により、ゴルフボール製作のための作業場を設置するため等に、同「作業場設置費等請求額」欄記載の金額を、それぞれ遅くとも平成四年七月末日までに支払い、その出費相当額の損害を被った。
さらに、本件では弁護士を依頼せざるを得ないところ、弁護士費用として出費した額は、原告一人につき三〇万円を下回ることはない。
したがって、原告各自の損害額は、同「請求債権額」欄記載の金額となる。
よって、原告らは、被告ら各自に対し、共同不法行為に基づく損害賠償請求として、別紙二「請求債権額」欄記載の各金員及びこれらに対する不法行為後である平成四年八月一日から各支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(請求原因の認否)
一 被告小池
1 請求原因一の事実は認める。
2 同二の事実は認める。
3(一) 同三1の事実は認める。
(二) 同三2(一)の各事実は認める。同三2(二)のうち、被告小池が、原告らに対し、作業が比較的簡単であること、仕事がなくなることはないこと、買取価額が五四円又は五六円であり、その場合は利益が一個あたり約二〇円となることを説明したことは認め、その余の事実は否認する。
被告小池は、原告らに対し、全工程を女性一人の力でできると説明したことはなく、特に塗装については女性では無理である旨説明した。
また、被告小池は、原告らに対し、被告小池の検査に合格した良品に限り、予め約定していた価額で買い取ることを説明していた。
(三) 同三3の事実は否認する。
被告小池は、原告らに対し、予めA級品のゴルフボールを見本として交付した上、ゴルフボールの検査基準として、ゴルフボールの歪みの有無、耳の切りすぎの有無、塗装の剥がれやムラの有無、ゴルフボールのキズの有無を挙げ、検査基準に合格するだけの塗装をすることは比較的困難であることを説明した。そして、塗装の剥がれについては、バレル研磨後の下地準備の段階で、付着している洗剤や砂をよく水洗いし乾燥させてから塗装し、これを十分に乾燥させなければ、剥がれが生じてしまい、剥がれのあるゴルフボールは買い上げない旨十分に説明した。
(四) 同三4の事実は認める。
(五) 同三5のうち、原告らと被告小池とがゴルフボール下請契約及びゴルフボール製作機一式の売買契約を締結したことは認め、その余の事実は否認する。
4 同四のうち、被告藤川が、原告らに対し、ゴルフボール製作機一式を納入し、設置、調整、使用方法の説明をしたことは認め、その余の事実は否認する。
5(一) 同五1の事実は否認する。
原告坂本謙一(以下「原告坂本」という。)及び同渋沢孝夫(以下「原告渋沢」という。)に対し、上下の金型のくぼみが正確に対応していない金型が引き渡されたことがあるが、被告小池は、右欠陥に気付きこれを直ちに交換した。そして、製作されたゴルフボールに歪みが生ずるのは、原告らが原材料を下金型に垂直に立てていないからであるが、これは原告らが未熟であるか、原材料に欠陥があるからであって、ゴルフボール成型機の欠陥ではない。
また、耳切研磨機の調整ネジが緩んでしまうのは、原告らが緩まないようきちんと点検することを怠っているからにすぎない。
さらに、粗砂がゴルフボールに突き刺さる原因は、バレル研磨機に入れる水の量が少ないことが考えられるが、ゴルフボールに粗砂が突き刺さることは殆どない。
(二) 同五2のうち、塗装前の洗浄及び塗装後の乾燥が塗装工程で重要な作業であることは認めるが、その余の事実は否認する。
被告小池は、福島から専門業者を呼んで、バレル・塗装について講習をし、洗浄については、古い洗濯機にぬるま湯を入れて洗浄する方法を指導し、乾燥についても、通常一日か二日はかかることを説明した。このように、被告小池は、各工程について十分に指導・説明をしたのであって、塗装の剥がれやすいゴルフボールしか製作できなかったのは、原告らが技術的に未熟であり、技術習得の熱意と努力に欠けていたからにほかならない。
(三)(1) 同五3(一)のうち、納品したゴルフボールの一割程度を抜き取って、歪み、キズ、塗装ムラの有無を調べ、そのうちのゴルフボール二個を強く擦り付けて剥がれが生じないかどうか検査するという検査方法を実施したことは認めるが、その余の事実は否認する。
被告小池は、右検査方法を実施するについて、原告らに対し予め説明をした。
(2) 同五3(二)のうち、歪み・キズ、塗装ムラ・剥がれの程度によって、不合格品、B級品、A級品の三段階に区別し、不合格品は買い上げを拒否し、B級品は一個二一円で、A級品は契約価格である一個五四円または五六円で買い上げるという検査基準及び買上基準を実施したことは認めるが、その余の事実は否認する。
被告小池は、原告らに対し、どのような場合に不合格品となるか、特に塗装の剥がれは全て不合格品になると事前に十分に説明した。
(3) 同五3(三)のうち、塗装ムラ・剥がれを理由に大部分が不合格品またはB級品となったことは認めるが、その余の事実は否認する。
被告らは、歪みを理由に納入されたゴルフボールを不合格としたことは殆どなく、多くは塗装ムラ・剥がれが原因であって、右のような欠陥があった場合には、欠陥箇所にマジックペンで印を付ける等改善点が明らかになるようにした上で原告らに返品していた。
(四) 同五4、5の各事実は知らない。
6 同六の事実は否認する。
7 同七のうち、原告らがゴルフボール製作機一式等を買い入れるために、別紙二「機械等代金請求額」欄記載の金額を支払ったこと、塗装機械及び原材料を購入するために、同「塗装設備費請求額」及び「材料購入費請求額」欄記載の金額を支払ったことは認め、その余の事実は知らない。
二 被告藤川
1 請求原因一の事実は認める。
2 同二の事実は否認する。
元々被告小池のゴルフボールの買い取りは、小桧山が行うことになっていたが、被告小池が小桧山と連絡がとれなくなってしまったことから、一年間に限り被告藤川がゴルフボールの買い取りをすることになったにすぎない。
3(一) 同三1の事実は認める。
(二) 同三2ないし5の各事実は知らない。
4 同四のうち、被告藤川がゴルフボール製作機一式の納入、設置を手伝ったことは認め、その余の事実は否認する。
使用方法の説明や作業指導をしたのは、被告小池である。
また、被告藤川は、原材料の購入先を紹介し、購入を仲介しただけであって、自らを購入先として指定し、原告らにこれを販売したのではない。
5(一) 同五1の事実は否認する。
(二) 同五2、3の各事実は知らない。
(三) 同五4、5の各事実は否認する。
被告藤川は、複数の転売先を有していたし、転売により採算がとれないことはなかった。
6 同六の事実は否認する。
7 同七の事実は知らない。
第三 証拠
本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。
理由
(認定に供した書証で成立等に争いがあるものの成立等の認定については、別紙三記載のとおりである。)
第一 ゴルフボール製作下請の経緯(被告らの原告らに対する侵害行為)
一 被告藤川と被告小池との関係について
甲第三一号証、乙第一号証、第二号証、第一六号証(被告小池の陳述書)、丙第一八号証(被告藤川の陳述書(後記採用しない部分を除く))、被告小池本人及び被告藤川本人(後記信用しない部分を除く)の各供述によれば、次の各事実が認められ、被告藤川本人の供述及び丙一八号証のうち、これに反する部分は前掲各証拠に照らし直ちに信用することができず、他にこの認定を左右するに足りる証拠はない。
1 被告藤川は、昭和六一年ころから、紀州工業(この後「三基商事」と名称を変更)からゴルフボール製作機を買った上、ゴルフボールを製作し紀州工業に納品するという業務を行っていたが、ほどなく自らゴルフボールを製作することはやめて仲買人となり、昭和六三年ころからは、紀州工業に倣い、ゴルフボール製作機の卸売及び製作されたゴルフボールの買い上げ、転売の業務を行うようになった。すなわち、被告藤川の業務内容は、まず、各地域において代表者(機械販売、ゴルフボール販売を統轄する元請業者)を募集し、さらに右代表者に下請業務を募集させて、代表者を通じてそれら下請業者に対し、紀州工業から買い入れたゴルフボール製作機を販売し、それによって製作されたゴルフボールを代表者を通じて買い上げ、転売するというものであった。
2 被告小池は、自車持込みによる運転手として稼働していたが、病気によりその仕事ができなくなり、平成三年八月当時、自宅を利用してできる仕事を探していたところ、そのころ、「福陽商会」名で掲載された、ゴルフボール製作・販売の「独立希望者募集」の新聞折込み広告を見て応募し、被告藤川及び福島県を中心とする地域の代表者である福陽商会こと小桧山義孝(以下「小桧山」という。)と面接し、業務内容について説明を聞いた上、埼玉県を中心とした地域の代表者となることを勧誘されたことから、被告小池もこれを了承した。
被告藤川が、被告小池に対し説明した内容は、概ね次のとおりである。
(一) 被告小池は、被告藤川の指導のとおり新聞折込み広告により下請業者を募集して、四、五人程度採用する。そして、被告小池は、その下請業者に対し、被告藤川から購入したゴルフボール製作機一式を売却し、それを使って下請業者にゴルフボールを製作させて、そのゴルフボールを買い上げ、さらにそのゴルフボールを被告藤川に転売する(この点、被告藤川は、元々被告小池のゴルフボールの買取りは、小桧山が行うことになっていたが、被告小池が小桧山と連絡がとれなくなってしまったことから、一年間に限りゴルフボールの買い取りをすることになったと主張し、それに沿った丙第二一号証及び被告藤川本人の供述があるが、小桧山は被告小池と同様の地域代表者にすぎず、地域代表者が他の地域を募集するのは不自然であり、その他曖昧な点が多く、被告小池本人の供述に照らし、直ちに信用することができず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。)。被告小池と下請業者との間の契約締結の際には、被告藤川が交付したゴルフボール製作機一式の注文書やゴルフボール製作下請業者の契約書を使用する。
(二) ゴルフボール製作機一式は、必ず被告藤川を通じて購入し、その購入価格は新品で二九三万円、新古品で二三五万円であるが、これを下請業者に対しそれぞれ三三八万円、二八〇万円で売却する。ゴルフボール製作機一式については、被告藤川が納入、設置、メンテナンスを行うが、塗装機械のみは、被告小池が別途調達する。
(三) 被告小池は、下請業者が製作し納入したゴルフボールの中から一割を抜き出し、耳の削り過ぎがないか、塗装のムラがないか、二個のゴルフボールを擦り合わせて塗装の剥がれが生じないかどうか等検査した上、A級品、B級品、不合格品に分け、下請業者からA級品は五四円、B級品は二一円で買い取る。さらに被告藤川は、被告小池から、A級品は五九円、B級品は二六円で買い取る。
二 原告らの契約締結からゴルフボール製作中止までの経緯
1 被告らの募集広告
被告小池は、平成三年九月二二日から、「週刊求人ポスト」「求人ジャーナル」等の新聞折込み広告紙に、「不朽のゴルフ人気、下請募集、練習用ゴルフボール製作、<作業所>四坪程度必要、<専属契約>仕事・年中有」等を内容とする広告を「宏和商会」名で掲載し、被告小池が初めて新聞折込み広告を出した右同日から三日間は、被告藤川が、被告小池に代わって、右広告を見て掛かってきた電話の応対及び被告小池宅へ面接に来た下請希望者に対する説明を行った事実については、当事者間に争いがない。そして、乙第一六号証及び被告小池本人の供述によれば、右新聞折込み広告の文面は被告藤川が被告小池に指導したことが認められ、右認定に反する被告藤川本人の供述は不自然であり、直ちに信用することはできない。
2 原告坂本謙一(以下「原告坂本」という。)について
甲第一号証の一、第二〇号証(原告坂本の陳述書)、乙第三号証、第八号証の一、第一一号証の二、第一二号証の七、一五、第一六号証(後記採用しない部分を除く。)、丙第二一号証(後記採用しない部分を除く。)、原告坂本本人、被告小池本人(後記信用しない部分を除く。)、被告藤川本人(後記信用しない部分を除く。)の各供述によれば、次の各事実が認められ、乙第一六号証及び丙第二一号証、被告小池及び被告藤川各本人の各供述のうち、これに反する部分は直ちに信用することができず、他にこの認定を左右するに足りる証拠はない。
(一) 原告坂本は、平成三年九月二三日、前記内容の広告を読み、翌日、被告小池宅を訪れたところ、同所にいた被告藤川から、ゴルフボール成型機の使用実演及びその説明を受けた。その際、被告藤川は、原告坂本に対し、製作したゴルフボールはすべて買い取ること、塗装は専門業者が指導すること、原価は約三二円で買入れが五六円であるから、一個あたり利益が約二四円であり、ゴルフボールは一時間に一〇〇個位できることについてそれぞれ説明をしたものの、塗装については何ら具体的な説明をしなかった。また、原告坂本は、他の下請業者の作業を見学することを希望し、被告小池とともに、後日その様子を見学したが、その時も、塗装は別の場所でやっていると言われ、塗装作業を見せてもらうことはできなかった。
(二) その一方で、被告らは、原告坂本に対し、製作されたゴルフボールの検査については、コゲやキズに注意すること、機械で検査することを説明したのみで、具体的な検査方法や検査基準についての説明を全くしなかった。
(三) 原告坂本は、以上のような説明を信じたことから、同年一〇月一一日、被告小池との間で、被告小池の検査に合格したゴルフボール一個の価額が五六円であること、納入数量を月最高五万個、最低五〇〇〇個とすること等を内容とするゴルフボール製作下請契約及びゴルフボール製作機一式二組の売買契約を締結したが、その際にも、被告小池は、原告坂本に対し、女性でも簡単にできること、練習用のゴルフボールだから多少の不具合は問題にならないことを説明し、ゴルフボールの検査方法、検査基準については何らの説明もしなかった。
(四) その後、原告坂本は、同月二四日には、自宅に一〇坪程度の作業場を建設し、同月二五日にはコンプレッサー等の塗装機械を購入し、ゴルフボール製作の開始準備を進めていたところ、同年一一月七日、被告藤川が、被告小池とともに、ゴルフボール製作機一式を納入、設置した。その際、被告小池は未だゴルフボール製作機一式の使用方法を知らなかったことから、被告藤川が、原告坂本に対し、ゴルフボール製作機一式の実演指導を行った。
(五) 被告小池は、被告藤川から、材料費を被告藤川が負担するとの約束のもと、耳切りまで終えた状態のゴルフボールの納入の依頼を受けていたことから、ゴルフボール製作機一式を購入した同日、原告坂本に対し、右ゴルフボールの製作を一個につき一〇円で依頼したところ、同人もこれを了承した。そこで、原告坂本は、被告小池に対し、同月一八日から平成四年二月四日までの間に、右ゴルフボールを合計七万二〇〇〇個余り納入したが、耳切りまでの作業は、被告らが説明したとおり、一時間に一〇〇個位の割合で製作でき、被告らから不合格品として買取りを拒否されることもなかった。
なお、被告らは、この間に、前記広告により下請希望を申し出た者数十名を、原告坂本方に案内し、同原告らの右作業状況を見学させた。
(六) 原告坂本は、耳切りまでの作業依頼を終えた後の同月二一日、ようやく被告小池及び小林某(以下「小林」という。)から塗装作業の講習を受けたが、講師である小林は、被告藤川から紹介された福島の業者である半谷某(以下「半谷」という。)から一か月ほど前に講習を受けたばかりの下請業者にすぎず、他方、被告小池は、被告藤川から機械の使い方を教わった程度で、自分ではゴルフボールの製作をしたことがなかった。したがって、被告小池及び小林は、バレル研磨機の使用方法を簡単に説明し、その後の洗浄については、たらいか洗濯機を使えばよいという程度に説明しただけであった。また、塗装についても、ゴルフボールを並べて片側ずつ塗装する旨の説明をし、簡単に塗装を実演してみせただけで、あとは自分でムラがなくなるまで練習するしかないと言っただけであり、塗装後の乾燥についても、具体的説明はなかった。(なお、この塗装のやり方ではムラが出てしまうことから、後日塗装方法の説明が変更された。)。さらに、塗装の検査基準についても、ムラがないようにという程度の説明しかなされなかった。
(七) 原告坂本は、塗装の講習で教わったとおりの方法でゴルフボールの塗装を行ってみたが、実際は塗装に時間がかかることから、一時間に一〇〇個位製作できるという被告らの説明に反して、妻と二人で精一杯(一日一〇時間くらい)働いても、当初は一日三〇〇個程度(技術が向上した同年七月ころでも一日六〇〇個程度)しか製作することができなかった。
(八) 原告坂本は、塗装について練習を重ねた末、同年三月下旬、塗装したゴルフボール二〇個を見本として被告小池宅へ持参し、これでよいかどうか確認したが、被告小池は、コゲ、キズ、塗装ムラがないこと、ディンプルがきちんとできていること、塗装ムラが一か所なら大丈夫であることを説明し、持参したゴルフボールについては、ただ眺めただけで、特に不具合を指摘することもなかった。そこで、原告坂本は、同年四月五日、被告小池に初めてゴルフボール四七五〇個を納品した。しかし、被告小池は、ゴルフボールの検査方法について何ら具体的な説明をしていなかったにもかかわらず、原告坂本が納入したゴルフボールのうちの二個を何十回も擦り合わせて塗装が剥がれたことを示し、このような塗装ではだめだと言って、結局四七五〇個のゴルフボール全ての買上げを拒否した。
(九) さらに、原告坂本は、同年六月五日、被告小池に対し、五五〇〇個のゴルフボールを納品したところ、被告小池は、そのうちの二個ゴルフボールを擦り合わせる検査を三組くらい実施したが、何れも剥がれが生じなかったことから、そのまま全てのゴルフボールを受け取った。しかし、被告小池がそのゴルフボールを被告藤川に納入したところ、被告藤川は、そのうち二一一〇個をA級(原告らに対しては「良品一級」と通知していることが多い。以下「A級」という。)、一三〇〇個をB級(原告らに対しては、「良品二級」と通知していることが多い。以下「B級」という。)、その残りをすべて不良品と判断し、被告小池も、右判断に基づき、A級のみを一個五六円という契約時の価額で買い上げ、B級については材料費もはるかに下回る一個二一円で買い上げ、不良品については買上げを拒否した。しかし、被告らは、原告坂本に対し、あらかじめ、A級B級という検査基準が存在すること及びA級品のみを契約した価額である五六円で買い上げ、B級品は二一円で買い上げるという買上基準が存在することについて、何ら説明をしていなかった。そして、被告小池は、原告坂本に対し、B級及び不良品となった原因については、「ボール横の塗料が多くディンプルがうまりそう。」と記載した仕切書(乙第一二号証の七)を送付しただけで、具体的な説明をせず、不合格品とされたゴルフボールを原告坂本に返還することもしなかった。
その後、原告坂本は、同年七月四日にも、被告小池に対し、ゴルフボール九五〇〇個を納入したが、被告小池はその場でゴルフボールを擦り合わせる検査を実施し、剥がれが生じたことを理由に、一五〇〇個の受け取りを拒否し、残り八〇〇〇個を受け取った。しかし、その八〇〇〇個についても、被告小池は、同月一三日ころ、原告坂本に対し、四四三〇個のみがA級であり、二八五〇個については塗料が多いこと及び塗り漏れがあることを理由にB級品とし、七二〇個についてはキズ等を理由に不合格品とするとの通知をした。
(一〇) 原告坂本は、被告小池がその後も塗装について何ら具体的な指導をせず、製作を続けても全く利益が得られないと判断し、同年七月上旬ころまでにはゴルフボール製作を断念した。
3 原告内田好男(以下「原告内田」という。)について
甲第七号証の一、第二一号証(原告内田の陳述書)、第二二号証の一ないし六、乙第八号証の七、第一〇号証の一、第一二号証の二、九、第一六号証(後記採用しない部分を除く。)、丙第二一号証(後記採用しない部分を除く。)、原告内田本人、被告小池本人(後記信用しない部分を除く。)の各供述によれば、次の各事実が認められ、乙第一六号証及び被告小池本人の供述のうち、これに反する部分は直ちに信用することができず、他にこの認定を左右するに足りる証拠はない。
(一) 原告内田は、平成三年一二月二〇日、右1(一)に記載した内容の新聞折込み広告を読み、同月二二日、被告小池宅を訪れ、被告小池から、ゴルフボール成型機及び耳切研磨機の使用実演及びその説明を受けたが、塗装に関しては、塗装用の木枠にゴルフボールを乗せて塗装するという程度の説明しか受けなかった。その際、被告小池は、原告内田の質問に答え、製品買取価額が一個五四円、材料費が三〇円、雑費が五円であるから、一個あたり利益が二〇円あること、ゴルフボールは一時間に九〇個はできるから、一日八時間働くと月三六万円の利益があること、ゴルフボール買上期間は一年であるが、これは形式的なものであり、継続して仕事があること、非常に簡単な作業であり、塗装は専門業者に指導させること、不良品が出る率は二パーセントくらいであることを、それぞれ説明した。
(二) さらに、原告内田は、被告小池から、先に下請業者となっていた原告坂本を紹介され、同年一二月二六日、原告坂本の作業状況を見学したが、前述のとおり、当時原告坂本は、成型、耳切りの作業だけをしていたにすぎなかったことから、原告内田は、その作業に精を出す原告坂本の姿を見、かつ、被告小池が説明した内容とほぼ同じ内容の説明を原告坂本から聞くことができたことから、自らも下請業者となることを決意したが、結局、契約締結までに塗装作業について見学することはできなかった。
(三) 原告内田は、以上のことから、被告小池の説明を信じて、平成四年二月一四日、被告小池との間で、被告小池の検査に合格したゴルフボール一個の価額が五四円であること、納入する数量を月最高三万個、最低五〇〇〇個とすること等を内容とするゴルフボール製作下請契約及びゴルフボール製作機一式の売買契約を締結したが、ゴルフボールの検査方法、検査基準については何ら説明を受けなかった。
(四) 原告内田は、同日に七坪程度の作業場の建設を開始し、同月二六日には、被告小池と被告藤川が原告内田宅を訪れ、ゴルフボール製作機一式を納入、設置した。その際、被告小池が、原告内田に対し、ゴルフボール製作機一式の実演指導を簡単に行った。
(五) 原告内田は、同年四月六日に、ようやく塗装作業の講習を受けたが、塗装作業の専門家に塗装指導をさせるという被告小池の説明に反して、塗装の講師は、一か月ほど前に簡単な講習を受けただけの原告坂本であった。そのため、塗料の配合や基本的な作業を教えてもらっただけで、塗装作業について十分に指導説明を受けることができなかった。
(六) 原告内田は、原告坂本から教わったとおり塗装作業を試みたものの、うまく塗装ができないことから、被告小池に指導を受けに行ったが、被告小池は、他の同業者はうまく塗装しているというだけで、十分な指導をすることはなかった。
(七) 原告内田は、バレル研磨や塗装方法について独自に工夫を重ねた末、同年五月二三日に、塗装したゴルフボール五〇〇個を納品した。その際、被告小池は、ゴルフボールの外観を見ただけで、塗料の剥がれの検査をすることもなく、右五〇〇個のゴルフボールをそのまま受領し、契約どおりの一個五四円で買い上げた。しかし、その後原告内田は、被告小池に、同月二八日に五〇〇個、同年六月三日に一〇〇〇個、同月四日に五〇〇個、同月一九日に一〇〇〇個、同月二九日に四五〇〇個と、それぞれ納入したものの、その後、被告小池は、主に塗装の剥がれや塗料が多いことを理由に、右納入分七五〇〇個すべてにつき不合格品として買上げを拒否して返品した。
(八) 原告内田は、自らは満足しうるゴルフボールを製作したはずなのに、被告小池に買い上げてもらえず、ゴルフボール製作を続けても全く利益が得られないと判断して、同年七月ころゴルフボール製作を断念した。
4 原告渋沢孝夫(以下「原告渋沢」という。)について
甲第一一号証の一、第二三号証(原告渋沢の陳述書)ないし第二六号証、乙第八号証の一一、第一六号証(後記採用しない部分を除く。)、原告渋沢本人、被告小池本人(後記信用しない部分を除く。)の各供述によれば、次の各事実が認められ、乙第一六号証及び被告小池の供述のうち、これに反する部分は直ちに信用することができず、他にこの認定を左右するに足りる証拠はない。
(一) 原告渋沢は、右1(一)に記載した内容の新聞折込み広告を読み、平成四年一月一九日、被告小池宅を訪れ、被告小池から、女性でも簡単に仕事ができること、ゴルフボール一個あたり利益が二〇円から二一円あること、ゴルフボールは一時間に一〇〇個ぐらい製作できるから、一か月に四〇万円くらいの収入になること、ゴルフボールが不足しており、作っても作っても作りきれないような状況にあるので、製作したゴルフボールは全て買い上げることについてそれぞれ説明した。
(二) さらに、原告渋沢は、原告内田と同様に、被告小池から原告坂本を紹介され、同年二月一二日ころ、原告坂本の成型作業を見学し、被告小池が説明した内容とほぼ同じ内容の説明を原告坂本から聞くことができた。
(三) 原告渋沢は、以上のことから、被告小池の説明を信じて、同年四月五日、被告小池との間で、被告小池の検査に合格したゴルフボール一個の価額が五四円であること、ゴルフボール納入数量が月最高三万個、最低五〇〇〇個であること等を内容とするゴルフボール製作下請契約及びゴルフボール製作機一式の売買契約を締結したが、ゴルフボールの検査基準、検査方法については何ら説明を受けることはなかった。
(四) 被告小池と被告藤川は、同年五月二二日、ゴルフボール製作機一式を納入、設置したが、その際、被告小池が一度成型してみせて説明しただけであった。
(五) 原告渋沢は、同年七月一九日、製作したゴルフボール五〇〇個を被告小池に納入したが、その後、もっぱら塗装の不良を理由として、全て不合格品とされた。そこで、原告渋沢は、同月三一日、製作したゴルフボール一〇〇〇個以上の中で出来がいいものだけ四一〇個を選んで持参し、その場での検査を求めたところ、被告小池から、約一割をA級品、約一割を不合格品とし、残りをすべてB級品と判定されたため、到底我慢して納入する気にはなれず、右ゴルフボールを納入せずに持ち帰った。そして、原告渋沢は、被告小池の許可を得て、自らゴルフボールの販売を行うことにした。
(六) そこで、原告渋沢は、自ら他に販売するしかないと考え、被告小池の承諾を得た上、複数のゴルフ練習場へ販売交渉に行ったが、ゴルフボールの形がいびつであること、大手メーカのゴルフボールでも一個六〇円程度で買えること、ゴルフボールの交換は二、三年に一度でよいこと等を理由に、全てのゴルフ練習場から買い取りを拒否された。
5 その他の原告らの場合
(一) 甲第二ないし第四、第六、第八ないし第一〇号証の各一、乙第八号証の二ないし六、八ないし一〇、第九号証の五によれば、原告らのうち、原告坂本、同内田、同渋沢を除く者達(以下「他の原告ら」という。)が、被告小池との間で、別紙一の「契約日」欄記載の各日に、ゴルフボール製作下請契約及びゴルフボール製作機一式の売買契約を締結したことが認められる。(原告らと被告小池との間では争いがない。)。
(二) そして、乙第一〇号証の一、二、第一一号証の一、第一二号証の三ないし六、八、一〇ないし一四、第一三号証、被告小池本人の供述及び弁論の全趣旨によれば、その他の原告ら(原告亀田清広を除く。)も、下請契約に従い、別紙一の「納入時期」記載の各時期に、「納入数」欄記載の個数のゴルフボールを被告小池に納入したが、被告小池側が行った検査の結果は、「合格数」「不合格数」各欄記載のとおりであり、いずれも、不満足なものであったことから、全く納入するに至らなかった原告亀田清広を含め、その他の原告らは、平成四年七月末ころまでには、ゴルフボール製作を続けても全く利益は挙がらないと判断し、まもなく、その製作を断念したことが認められ、この認定を左右するに足りる証拠はない。
(三) そして、原告坂本、同内田、同渋沢につき、いずれも、被告小池は、契約締結までに、成型過程を簡単に実演しただけで、簡単にできる仕事であり、製品はすべて買い取り、かなりの高収入が期待しうると説明しながら、塗装については具体的な説明をせず、製品検査の方法や基準についても具体的な説明をしなかったこと、ところが、現実に作業してみると、塗装には時間と労力を要するものであり、また、製品検査に当たり、厳しい検査方法をとり、しかも、厳しい検査基準を実施して、不合格品と判定したり、製作原価を下回る買上価額のB級品と判断したことは、前判示のとおりであるから、右(二)の事実に照らしても、被告小池は、その他の原告らについても、右三名の原告と同様な対応をしたものと推認され、乙第一六号証、被告小池本人の供述中、右認定に反する部分は信用することができず、他にこの認定を左右するに足りる証拠はない。
三 納入ゴルフボールの転売可能性について
1 原告らが製作して被告小池に納入するゴルフボールは、すべて、被告藤川が買い上げることとされていたところ、被告藤川がこれらのゴルフボールを継続的に転売するだけの転売先を有していたかどうかという点が問題となる。そして、確かに、調査嘱託の結果、丙第二号証、第三号証の一ないし五、第四号証の一ないし三、第五号証の一ないし三、第六号証の一ないし一七、第七号証の一ないし六、第八号証の一ないし五、第九号証の一ないし三によれば、被告藤川は、マイボール信州、環境工学、半谷商会、株式会社コーヨー、サンキケンネル、株式会社大和、井川ソーイングという転売先を有しており、それぞれにゴルフボールを販売した旨の記載があるが、仮に右内容どおりのゴルフボールの販売の事実が存在していたとしても、丙第一五号証の一によれば、環境工学、株式会社大和、井川ソーイングは、既に平成四年の前期から中期には倒産していたことが認められ、原告らが被告小池に対しゴルフボールを納入しはじめた平成四年には継続的な取引があったとは考えがたく、また、被告藤川本人の供述によれば、半谷商会は、被告小池らと同様の地域代表者にすぎないこと、サンキケンネルは、ゴルフボール製作機一式の販売元である三基商事の代表者の親族が経営しており、そのゴルフボールの使用方法は主にドッグショーの景品としていたにすぎないことが認められ、さらに原告渋沢本人及び被告藤川本人の各供述によれば、その転売価額も大手メーカーのブランド品とほぼ同じかそれ以上であることが認められることからすると、継続的に大量のゴルフボールの需要があるとは考えがたく、結局、被告藤川はゴルフボールの継続的な転売先を有していなかったものと推認され、右認定に反する丙第二一号証及び被告藤川本人の供述は、曖昧な点が多く、直ちに信用することはできず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。特に、原告らの下請契約上の最高買取個数の合計は月四九万五〇〇〇個にも達するのであり、これだけの個数が納入されるときは、被告藤川は、原告らの納入分だけでも到底転売することができなかったものとみるべきである。
2 また、乙第二号証によれば、被告藤川の、被告小池からの、A級品ゴルフボール買取価額は一個五九円であったことが認められるところ、被告藤川本人の供述によれば、同被告自身の利益は、ゴルフボール一個につき一〇円以上なければ、商売が成り立たないというのである。また、被告藤川本人の供述によれば、ゴルフ練習場に納入するためには、被告藤川から購入した者(転売先)が、さらにネーム入れ、仕上げ塗装をするために費用をかける必要があったことが認められる。そして、原告渋沢本人の供述によれば、一般のゴルフ練習場は、大手メーカー製造のゴルフボールを一個六〇円程度で購入していたことが認められるから、原告らが製作したゴルフボールが約定された一個五四円ないしし五六円で被告小池に継続的に納入されたとしても、これが、被告藤川を経由してゴルフ練習場に買い入れられる可能性は、殆どなかったものとみるべきである。
第二 被告藤川の責任について
右判示のとおり、被告藤川は、被告小池をして、ゴルフボール製作は誰にでもできる簡単な仕事であり安定して継続的に高収入が得られると広告・説明をさせ、被告小池と原告らとの間に高額なゴルフボール製作機一式の売買契約を締結させてゴルフボール製作の下請契約を締結させたにもかかわらず、実際には、被告藤川が指導し、指導させた塗装方法では、ゴルフボールを上手に塗装することが著しく困難であり、原告らの殆ど全員が上手に塗装ができなかったのであり、その一方で、被告藤川は、原告らに何らの説明もなかった非常に厳格な検査を実施し、塗装の不良等を理由に、大部分のゴルフボールを不合格品またはB級品と判定したのである。また、被告藤川は、たとえ被告小池からゴルフボールが納入されたとしても、それを継続的に転売できる転売先を有していなかったのであり、しかも、被告藤川が設定した買取価額では、その後の流通利益、経費からみて、そのゴルフボールがゴルフ練習場に買い入れられる可能性が殆どなかったのである。しかも、被告藤川は、被告小池に対しては、当初四、五人の下請業者を採用する旨説明しながら、各下請業者の製作継続を前提とするかぎり明らかに供給過剰になるはずなのに、結局、原告らだけでも一一人にもなる下請業者の採用を許しているのである。以上の各事実を総合するときは、被告藤川は、被告らが指導する所定の製作工程に従って原告らがゴルフボールを製作し納品しようとしても、大多数がB級品または不合格品となり、原価以下でしか買い上げられないか買い上げられないため、採算がとれる仕事として継続することが不可能又は著しく困難であり、ましてや、相当な努力をしたとしても安定的な高収入などは全く期待することができないことを知りながら、これを秘して、被告小池をして、原告らに対し、あたかも誰でも簡単に商品価値のあるゴルフボールを製作でき、被告小池を通じて確実にこれを買い上げてもらうことにより安定的に高収入を得られるかのように勧誘し、被告藤川自らは、ゴルフボール製作機一式の納入、設置、製品の買上げの元締としての役割を果たすことにより、原告らに多額の設備投資を要する取引を行わせたものと認めることができ、丙第二一号証及び被告藤川本人の供述のうち右認定に反する部分は、曖昧かつ不自然な点が多く、到底採用することはできず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。
第三 被告小池の責任について
一 前記認定事実によれば、被告小池は、自らゴルフボール製作をしたことがないにもかかわらず、原告らに対し、誰にでもできる簡単な仕事であり、安定して高収入が得られると広告・説明しているのであり、原告らから納入されたゴルフボールを、検査の結果、A級品、B級品、不合格品の三段階に分け、A級品のみを契約時の買取価額で買い取り、B級品の場合には製作原価を下回る価額でしか買い取らないということを知っていたにもかかわらず、原告らにはそのことを説明していないのであり、また、原告らから塗装の指導を求められたにもかかわらず、具体的な説明をせず、はかばかしい指導もしていないのに、検査に当たっては、その塗装の点を特に厳しい方法、基準で判定していたのである。そうであれば、被告小池も、広告により原告らを勧誘する当初から、あるいは、遅くとも各契約を締結する時点では、被告藤川の前記故意と同様な認識があったと推認することが可能なようにも思われる。
しかしながら、さらに前記認定事実によれば、被告小池自身、被告藤川が出した新聞折込み広告を見て応募してきた者にすぎないのであり、広告の内容や原告らに対する説明も、被告藤川の指導するとおりに行ったにすぎないとみられること、被告小池自身はゴルフボールの製作を行ったことがなく、ゴルフボール製作方法も被告藤川から簡単に教わった程度であって、塗装工程等ゴルフボール製作の困難さをあらかじめ認識していたとは考えがたいこと、そして、被告小池本人の供述によれば、被告小池が合格品としたゴルフボールが、被告藤川により不合格品として再度送り返されたことも少なくなかったことが認められることを考慮するときは、結局、被告小池に関しては、少なくとも各契約締結時までに被告藤川の前記故意と同様な認識があったものと推認するにはなお足りないものというべきである。
二 そこで、次に被告小池の過失責任の有無について検討する。
前記認定事実からすれば、被告小池は、被告藤川の説明することをそのまま信用し、ゴルフボール製作の技術や経験が全くないにもかかわらず、その製作方法について自ら被告藤川に対し確認することを怠っていたことになり、また、ゴルフボールをA級品、B級品、不合格品の三段階に分け、A級品だけを契約時の買取価額で買い取るということを知っていたにもかかわらず、これを原告らに告げることを怠っていたことになる。そして、被告小池は、自ら具体的な検査基準や検査方法を理解していなかったため、原告らに事前に何ら説明をすることができなかったのである。さらに、被告小池は、一方で供給過剰を防ぐために下請業者一人当たりの納入最高数量を限定していることを理解していながら、当初の予定を大きく上回る下請業者を採用しているのだから、結局、営業を継続していける見込みがあるかどうか全く確認しないままに、下請業者を募集して高額の投資をさせたものということもできる。以上の各点からみれば、被告小池は、その当時認識していた事実からすると、通常の注意を払えば、原告らがA級品のゴルフボールを継続して製作して利益を挙げることが著しく困難であり、原告らに高額な設備投資をさせても損害を及ぼす危険性が高いことを容易に認識しえたものということができ、その注意を払わずに、原告らに十分な説明をしなかったという点において過失があったということができる(乙第一六号証及び被告小池本人の供述中には、被告小池が原告らに対し、ゴルフボールの検査基準及び検査方法をきちんと説明したとの内容があるが、それ自体曖昧な点が多く、「契約書」(甲第一号証の一等)中の「但し、宏和商会の検査に合格したもの」という記載も、これを裏付けるものではない。また、右乙第一六号証、被告小池本人の供述中の、ゴルフボールの製作(塗装)方法についても予め十分に説明し、その困難なことも説明したとの部分についても、曖昧であり、「契約書」第六条①(機械設置後三か月以上最低数量を納品できないときは契約を解除できる旨の規定)もこれを裏付けるものではない。したがって、結局、右各証は信用するに足りない。)。
第四 共同不法行為の成立
以上判示したとおり、被告らは、原告らに採算がとれる仕事として継続することが不可能又は著しく困難なゴルフボール製作下請契約を締結させ、高額なゴルフボール製作機一式を販売するという不法行為を分担して行っており、その結果、原告らに右購入代金はじめ多額な設備投資をさせて損害を生じさせたのであるから、原告らに対し、右共同不法行為に基づく責任として、これにより原告らの被った損害を連帯して賠償する義務を負うべきである。
第五 原告らの被った損害
一 甲第一号証の二ないし七七、第二号証の二ないし三九、第三号証の二ないし二五、第四号証の二ないし四一、第五号証の一ないし二八、第六号証の二ないし四二、第七号証の二ないし四〇、四二ないし五四、第八号証の二ないし五七、第九ないし第一一号証の各一ないし五(いずれも小枝番省略)、第二〇号証、第二二号証、原告内田本人、同渋沢本人の各供述及び弁論の全趣旨によれば、原告らは、被告小池とゴルフボール製作下請契約を締結したために、被告小池からゴルフボール製作機一式を購入したほか、塗装設備や原材料を購入し、さらにこれら作業場を新たに設置したが、それに要した費用は、別紙二の各認定額欄記載のとおりであることが認められる。なお、原告石塚重吉、同古内博、同武田清、同内田好男、同木暮隆治、同長沼和夫は、右認定額を超える損害を主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。
二 さらに、原告らは、被告らの前記不法行為責任を追及するための本件訴訟の提起、追行を原告ら訴訟代理人の弁護士らに委任し、このために相当な費用を要するところ、右不法行為と相当因果関係を認めるべきは、原告ら一人につき各三〇万円が相当である。
第六 結論
よって、原告らの本訴請求は、被告らに対し、連帯して別紙「合計認容額」欄記載の各金額及びこれらに対する不法行為後である平成四年八月一日から各支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度においては理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却することとして、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条但書、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官小林克已 裁判官豊田建夫 裁判官松下貴彦)
別紙一、二、三<省略>